令和2年10月28日 午前11時 泉秀寺本堂に於いて、安名授与式(あんみょうじゅよしき)を厳修しました。安名とはお戒名のことを指しますので、生前にお戒名を授ける式という意味になります。戒名というと、世間では亡くなった方につけられる名前、つまり死者の名前であると思われがちですが、これは正しくありません。戒名とはお釈迦さまの教え「戒」を信じ生きていく人に授けられる、仏教徒としての新たな名前であり、戴いたら、普段の生活の中で仏教を信じ、修行していかなければなりません。そのスタートを切る式が安名授与式なのです。この度、当山檀信徒である種本明代さまのご希望により、仏縁が整いまして厳修させていただきました。
式は三部構成です。第一部は出家の儀、第二部は授戒の儀、第三部は報告諷経です。出家の儀では、戒名と絡子をお授けします。写真は『安名牌』(あんみょうはい)といって、三つ折りの奉書にお戒名が書かれてあります。当人は合掌して受け取ります。続いて、お袈裟を小さくした『絡子』(らくす)を授与します。絡子はお坊さんも普段身に付ける大切なものです。
安名牌
(あんみょうはい)
三つ折りの奉書にお戒名が記されています
絡子(らくす)
お坊さんが身につける袈裟を小さく簡略化したもの
血脈(けちみゃく)
授戒の儀では、仏教徒が守るべき十六ヶ条の教え『戒』を授けます。受けた証として『血脈』(けちみゃく)をお授けします。血脈とは、お釈迦さまから教えが伝わっていることを表す書き物のことをいいます。インドから始まり、中国、日本のお坊さまのお名前が綴られ、最後に当人のお戒名が書き記されています。「お釈迦さまのお弟子になりました」と申し伝えてお授けします。
最後に、ご本尊さまに般若心経をおあげして無事終了致しました。これからは仏教の篤信者として心安らかに生きていただきたいと思います。所要時間はおよそ45分となります。「お戒名が決まりましたので、はい、どうぞ」というわけにはいきません。仏教徒として生きていくという新たなスタートを切る式が安名授与式なのです。もし生前に戒名を頂きたい方はご相談に応じます。合掌
※16ヶ条のご戒法とは
三帰戒(さんきかい)
南無帰依仏
(お釈迦さまを師と信じ、拠りどころとします)
南無帰依法
(お釈迦さまの教えを信じ、拠りどころとします)
南無帰依僧
(教えを実践する仲間たちを大切にします)
三聚浄戒(さんじゅじょうかい)
摂律儀戒(しょうりつぎかい)
・・・一切の悪事を働きません
摂善法戒(しょうぜんぼうかい)
・・・すすんで善行に励みます
摂衆生戒(しょうしゅじょうかい)
・・・他者の為に尽くします
十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)
第一不殺生(ふせっしょう)戒
・・・いたずらに生き物を殺さない
第二不偸盗(ふちゅうとう)戒
・・・人のものを盗まない
第三不貪姪(ふとんいん)戒
・・・淫欲をむさぼらない
第四不妄語(ふもうご)戒
・・・だましたり嘘をつかない
第五不コ酒(ふこしゅ)戒
・・・酒に溺れない
第六不説過(ふせつか)戒
・・・人の過ちを責め立てない
第七不自讃毀他(ふじさんきた)戒
・・・慢心をもったり人をけなしたりしない
第八不慳法法財(ふけんほうざい)戒
・・・人のために施すことを惜しまない
第九不瞋恚(ふしんい)戒
・・・いかりに燃えて我を失ったりしない
第十不謗三宝(ふぼうさんぼう)戒
・・・仏法僧の三宝に不信の念を起こさない
最初から厳守して生活することは困難でしょうから、徐々に主体性を持って行動できるように目指しましょう。
生前戒名『安名の式』に臨んで
種本明代
今回、きっかけは夫が四年前に他界し、身に余るご戒名を頂き、できることなら夫と同じ思いを共有したい、しかも生前中に若しお戒名が頂けるものなら、自身も納得して、これからの余生を送れるのではという思いに至りました。副住職様にご相談をかけ、ご了解のもと戒名の二文字に付いてはお考え下さいという大きな宿題を課せられました。
そして、この度、身に余る「安名授与式」という貴重な機会を頂き、心身共に緊張し、当日、ご本堂に夫の遺影と共に座して、副住職様よりご丁寧なご説明を頂いた後、敬虔な気持ちで御本堂の御仏さまに向き合い、お経を頂き、自身を改めて見つめ直す機会を頂くことができました。
これからは、頂戴したお戒名に恥じないように限りある自分の命と向き合い、生きたいと新たな気持ちに至りました。この間、尊い至福の時間が流れ、改めてあの世に向かう心構えが少し理解できたように思えて、副住職様に感謝申し上げ、合掌をさせて頂きました。その後、夫の眠る墓前に向かい、線香と花を手向けて報告し、心安らかな気持ちでお寺を後にしました。合掌